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熊本地方裁判所玉名支部 昭和39年(ワ)54号 判決

原告

水上正信

被告

田上勇

主文

被告等は各自原告に対し、金二六万五、〇一二円およびこれに対する昭和三九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告等の各負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

被告等において、前項に基いて執行しようとする債権額と同額の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告等は連帯して原告に対し、金六〇万円およびこれに対する昭和三九年九月一八日(本件訴状が被告等に送達された日の翌日)からその支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一、被告田上勇(以下被告勇と略記する。)は石材砂利販売業を営み、自動三輪車(熊六せ七五〇六号)を所有し、これを自己のために運行の用に供している者であり、被告田上勝(以下被告勝と略記する。)は右勇の子であつて、同被告の家族として右勇の右営業に従事している者である。

二、原告は、昭和三八年八月二六日午前一一時頃、単車に乗車し、熊本県玉名郡菊水町浦の谷地籍の町道上を同町米渡尾方面に向い道路左側(通行方向に向つて)を進行中、反対方向から時速約三〇粁以上の高速度で右道路左側(原告の進行方向からは右側)を運行して来た被告勝の運転する前記自動三輪車によつて原告単車荷台に搭載中の農薬入れ紙箱に接触され、そのため原告は把手をとられて右手を被告運転の右自動三輪車ボデー脇に打ち当て、右小指挫創、右撓骨々折等の傷害を受けた。

三、右事故は被告勝が自動三輪車と単車とでは擦れ違えがようやくとみられるような狭い道路を減速徐行することなく漫然時速三〇粁以上の高速度で進行し原告単車と離合しようとした過失に因り惹起されたものである。

四、したがつて、被告勝は右過失に因り右事故を発生せしめた不法行為者として、また被告勇は右自動三輪車の保有者として、原告が右事故によつて被むつた損害を賠償すべき義務があるものである。

五、しかして、原告が右事故によつて被むつた損害は

(一)  就労不能による損害

原告は本件事故による受傷のため約七ケ月間就労不能の結果を来たした。

そのため右期間分の農業所得約七万円(因みに原告の年間農業所得は約一三万円である。)および白石堰ポンプの監督に従事し鹿島建設株式会社より受くべかりし月額二万円宛七ケ月計金一四万円の賃金合計二一万円の得べかりし利益を喪失し右同額の損害を被むつた。

(二)  労働能力減退による損害

原告は本件事故による受傷のため右手指に回復し難い機能障害の後遺症を負い労働能力の減退を被むつたが、右減退により同後受くべき損害の程度を金額に見積ると約一三万円を相当とする。

(三)  治療費

原告は本件受傷の結果、菊水町立病院、熊本大学病院、宮原温泉等において治療を受けたが、右治療のため合計金六万一、〇〇〇円の費用を支出している。

(四)  慰藉料

原告は本件事故により精神上相当の苦痛を受けたので右苦痛を慰藉するためには金二〇万円を相当とする。

六、よつて原告は被告等各自に対し、前項損害合計額の金六〇万一、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日(昭和三九年九月一八日)から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

旨述べ、また被告の仮定抗弁に対しては、原告が被告から見舞金として金四万一、〇〇〇円(一万一、〇〇〇円一回、一万円三回)、単車修理代として金一、七〇〇円を受けたほか、自動車損害賠償保障法による保険金として一〇万円合計金一四万二、七〇〇円の支払を受けていることは認めるが、その余の主張はすべて否認する旨述べ、立証として甲第一ないし第六号証を提出し、証人池田ナツエ同佐海誠一同田島哲郎および原告本人(第一、二回)に対する各尋問ならびに本件事故現場の検証を求めた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁として

一、原告請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項は、被告が時速三〇粁以上の高速度で反対方向より進行しておつたという点ならびに被告運転の自動三輪車の方から原告運転の単車荷台に搭載中の農薬入り紙箱に接触したという点は否認し、その余の部分は認める。

三、同第三項の事実は否認する。

四、同第四項の事実は争う。

五、同第五項の事実は全部否認する。

六、同第六項の事実は争う。

旨述べ、また仮定抗弁として

一、仮りに被告等に何らかの責任があるとするも、被告等は原告に対し見舞金四万一、〇〇〇円、単車修理代一、七〇〇円、自動車損害賠償保障法による保険金一〇万円合計金一四万二、七〇〇円を支払つたことにより、原告との間に示談が成立しているので被告等の本件損害賠償義務は消滅したものである。

二、右主張が認められないとしても、本件事故は被告勇に過失があるだけでなく、原告にも過失があり、寧ろ原告の過失の方が被告勇の過失よりも大であり、両者の比率は被告勇の二に対し原告八の場合を相当とすべきものである。

けだし本件接触箇所のような狭隘な道路を進行する単車乗りとしては、その後部荷台に高い農薬箱を積載して対向車と離合する場合は接触の危険が大であることは十分に予期されたのであるから、かかる状況下においては寧ろ単車乗用者の方が路肩に避難して対向車の通過を待つべき業務上の注意義務があるにも拘らず、原告は右注意義務を怠つてその儘進行したのであり、もし原告のかかる注意義務違反がなかつたら本件接触事故は惹起されなかつた筈であるからである。

したがつて被告等は右一の抗弁が認められないことを条件として過失相殺を主張する。

三、なお右一、二の抗弁が理由がないとするも、被告等は原告の要求により見舞金として合計金四万一、〇〇〇円(一万一、〇〇〇円一回、一万円三回)、単車修理代として一、七〇〇円を支払つたほか、自動車損害賠償保障法による保険金一〇万円も原告において受領済みであるから、被告等において損害賠償の責任があるとするも、右合計金一四万二、七〇〇円の金額は当然右賠償額から控除さるべきものである。

〔証拠関係略〕

理由

一、被告田上勇(以下被告勇と略称する。)が石材砂利販売業を営み、自動三輪車を所有して、これを自己のため運行の用に供していること、被告田上勝(以下被告勝と略称する。)が右被告勇の子であつて、同人の家族として右勇の右営業に従事していること昭和三八年八月二六日午前一一時頃熊本県玉名郡菊水町浦の谷地籍の町道上で同町米渡尾方面に向い進行中であつた原告運転の単車と反対方向から進行して来た被告勝の運転する被告勇所有の自動三輪車(熊六せ七五〇六号)とが接触してその際原告が右手を被告勝運転の右自動三輪車ボデー脇に打ち当て右小指挫創、右撓骨々折等の傷害を受けたこと、原告が被告から見舞金として金四万一、〇〇〇円(一万一、〇〇〇円一回、一万円三回)、単車修理代として金一、七〇〇円、自動車損害賠償保障法による保険給付として金一〇万円合計金一四万二、七〇〇円の支払を受けておること等の事実については当時者間に争いがない。

二、本件事故が被告勝の運転上の過失によつて発生したものであるか否かについて判断するに、〔証拠略〕を綜合すると、前記原告単車と被告(勝)運転の自動三輪車とが接触した現場は玉名郡菊水町大字原口から同町米渡尾に通ずる路面に砂利を敷いた田舎道で、東側は道路と概ね〇・五メートル位の高低差をなす水田に接し、西側は約三・五メートル位の高さの土手となつており幅員は四・一メートルを算するが両端に雑草が叢生しているため有効幅員は三・一メートル位しかなく、自動三輪車と単車との離合は辛うじて可能という程度で、なお両車の接触した地点附近を中心として該道路の南北両側が西方に向い彎曲し、やや弓型のカーブをなしておるため見透しの状況もよくないこと、しかして本件事故当日被告勝は被告勇所有の自動三輪車を運転し時速約二〇粁位で右カーブを曲りかけた頃前方約一二・八五メートル位の地点を反対方向から原付自転車に乗車し時速約一〇粁位で進行して来る原告を発見したこと等の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、かかる場合自動三輪車の運転者たる被告としては前記道路の状況就中有効幅員が極めて狭隘であること等から、対向原付自転車との接触衝突等不測の危険も慮られたのであるからこれと安全に離合し得るようできるだけ緩徐な速度で進行すべき業務上の注意義務があつたものというべきである。

しかるに〔証拠略〕を綜合すると、同被告は漫然前記速度(時速約二〇粁)で進行を続けたため原告の原付自転車と離合する際被告自動三輪車の右側前部に突出しているボデー受けが原告原付自転車の後部荷台に積載してあつた農薬箱に触れるにいたり、このため同自転車は安定を失いハンドルを握つた原告の右手が右自動三輪車の車体に当つて原告は右撓骨々折右小指挫創等の傷害を受け、なお右原付自転車の前部泥除けならびに荷台テールランプを破損するに至つたものである事実が認められ、右認定に反する証拠は存しない。

右事実によると、本件事故は被告勝の自動車運転者たる業務上の注意義務違反(運転上の過失)にもとづき生じたものといわなければならない。

そうすると、同被告は不法行為者として民法第七〇九条により原告に生じた前記損害を賠償する責に任じなければならないものであることが明らかである。

三、つぎに冒頭掲記の当事者間に争いのない事実によると、被告勇は自動車損害賠償保障法第三条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するので、同被告は被害者又は運転者以外の第三者に故意または過失があつたこと等同条但書所定の免責事由が存しない限り、本件事故により原告に生じた人身損害を賠償すべき義務を免がれないものであるところ、前認定のように本件事故は該自動三輪車の運転者である被告勝の運転上の過失にもとづくものであるから、被告勇について右但書所定の免責事由は到底これを肯認し難いものといわなければならない。

四、しかして被告両名の右賠償責任は所謂不真正連帯の関係にあるものというべきである。

五、そこでさらに原告が被むつた損害の額につき、以下に考察する。

(一)  〔証拠略〕を綜合すると、原告は前記接触事故に因り昭和三八年八月二六日右撓骨々折、右小指挫創等の傷害を負い、右同日から約七ケ月間玉名郡菊水町大字江田所在の同町立病院に入院または通院で治療を受け右治療費として同病院に対し合計金二万一、六四一円を支払い、また鹿本郡宮原温泉へ宿泊(延一四泊)あるいは日帰り(延三二日)で赴き合計金一万三、六五〇円を費して温浴療法も行つたが、同三九年三月頃には症状が固定しそれ以上の改善は期待できなくなつたため同月三〇日をもつて右治療を打ち切つたこと、右受傷当時原告は鹿島建設株式会社白石堰工事々務所に揚水ポンプ係として翌三九年三月末日迄の予定で雇われ、月給二万円の約束で稼働していたが、右手の負傷により右期間右就労が不能となり、さらに同年四月以降も原告は右手母指の屈曲と同末指関節の機能が不十分で、母指先端と小指ならびに環指との接触が阻害されたままの状態が続き、右手に鋤、鍬もしくは鎌等の農具を持つて作業し得る握力が極めて劣弱なものとなつたため農業就労が困難で、これという仕事に就けずブラブラしていたが、同四〇年二月ようやく月収約一万五、〇〇〇円の朝日新聞外務指導員に就職でき、今日に至つておること、本件受傷前原告は農業を営みその年間所得(粗収入から生産関係諸経費を差引いた純益)は約一三万円で、右所得に必要な労力は原告約7/10、同妻約3/10の各割合(所得寄与率)であつたこと等の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  右事実によると、原告の前記病院に支払つた治療費二万一、六四一円は同人が本件事故に因り受けた傷を治療するためのものであるから当然該事故に因り原告が被むつた損害となるものというべく、また宮原温泉旅館に支払つた湯治宿泊代等一万三、六五〇円も原告が右負傷治療のための温浴療法を受けるため必要だつたものであるから、これまた原告が該事故に因り被むつた損害というに妨げないものであり、なお原告は本件事故に遭遇しなかつたから、前記受傷時から鹿島建設白石堰工事々務所の仕事が終つた昭和三九年三月末日までの約七ケ月間は同事務所に勤め毎月約二万円の収入が得られた筈であるから本件事故に因り右得べかりし収入金一四万円(2万円×7=14万円)を喪失しさらに原告方の農業所得(年額一三万円)に寄与していた原告の労力割合は概ね7/10であつたのであるから、同人の農業による年間収入は約九万一、〇〇〇円(13万円×7/10=9万1,000円)と算せられるところ、原告が本件事故に遭わなかつたとすると、右のように鹿島建設の仕事が終つたあと、昭和三九年四月から朝日新聞外務指導員に就職した同四〇年二月までの一〇ケ月間は再び農業に従事し得られたのであるから右期間、これによる収入として金七万五、八三三円(9万1,000円×10/12=7万5,833円)を挙げ得た筈であるといわなければならない。

なお原告は、同人が本件受傷に因り、前記七ケ月間の就労不能による損害を被むるほか、後遺症のためその労働能力に減退を来たし、かつ右減退によつて向後受くべき損害の程度を金銭に見積ると約一三万円を相当とする旨主張するところ、同人に右後遺症のため約二〇%の労働能力の喪失を来たしたことは後記認定のとおりであるが、同人の本件事故前における年収は具体的なものとしては前記のごとく農業収入(原告が農業収入のほかに定額の収入があつたことについては立証がない。)の金九万一、〇〇〇円だけである(なお鹿島建設における就労は期間が限られておつたものであるから、その賃金をもつて原告の基準収入とすることはできない。)ところ、同人はその後昭和四〇年二月前記のように朝日新聞に就職して月平均金一万五、〇〇〇円(年額約一八万円)の収入を得るに至つたので、同人の収入は爾後前記受傷前の収入(年額九万一、〇〇〇円)を超えることになつたものというべく、したがつて前記不就労期間(本件事故時の昭和三八年八月から同四〇年一月末日迄の間)を除けば、収入減による具体的な損失は認めることができないことに帰するので、斯かる場合は結局事故に因り労働能力に減退は来たしたが、具体的に損害を発生していないものとして、被害者は該減退による損害の賠償を請求できない(昭和四二年一一月一〇日最高裁第二小法廷判決参照。)ものというほかない。

尤も斯かる場合においても事故との間に相当因果関係の認められる身体機能の障害(後遺症による労働能力の喪失)が存しこれによつて被害者が精神的苦痛を受けているときは右苦痛を慰藉するに足る損害の賠償を求め得べきことは勿論である。

このことは経済的労働能力の喪失と肉体的運動(労働)能力の喪失とが別個の性質のものである以上当然である。

したがつて当裁判所も後記のごとく慰藉料については原告の被むつた肉体的運動(労働)能力の喪失を斟酌してその額を定めた次第である。

そうすると、原告は本件事故に因る受傷のため物質的損害として叙上の

(イ)  治療費 金二万一、六四一円

(ロ)  温泉療法のため要した費用 金一万三、六五〇円

(ハ)  受傷時から昭和三九年三月末迄鹿島建設工事事務所に就労し得られなくなつたため失つた利益 金一四万円

(ニ)  昭和三九年四月から同四〇年二月朝日新聞就職時迄農業に従事し得られなくなつたため失つた利益 金七万五、八三三円

の合計金二五万一、一二四円相当の損失を受けたものというべきである。

原告はそのほか、本件受傷時から昭和三九年三月末日迄の間の農業収入七万円に相当する金額の損害並びに熊本大学附属病院における診療代(その数額について具体的な主張がない)相当額の損害についてその賠償を求める権利があると主張しているが、まづ前者については、原告本人尋問の結果によれば、同人は右期間中は専ら前記鹿島建設白石堰工事々務所に揚水ポンプ係として就労する予定にあつたものであることが明らかであり、右工事に就労する以上は同期間中農業に従事し得なかつたことは明白であり両者は択一的関係にあるものであるから、本件受傷に因る就労不能の損害として、右鹿島建設から受け得べかりし収入の喪失のほかに重複して同期間中農業従事により得べかりし収入の喪失をも主張するということは自家撞着でその失当であることが明白であり、また後者については、ついにその具体的な立証がないのでこれまた認めるに由ない。

(三)  つぎに原告は前認定のように本件受傷の結果右手母指の屈曲と同末指関節の機能が稀々劣り、母指先端と小指並びに環指との接触が阻害されるという後遺症を招き、右症状の程度は前記田島証人の証言によれば、労働基準法施行規則別表の身体障害等級表に照らし、第一二級六の一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すものと、同級九の一手の環指の用を廃したものとの双方に該当するということであるから、同規則第四〇条第三項第一号の適用による繰上げ修正により同表第一一級にランクされ、同表と対応して作成された労働能力喪失率表と比照すると右喪失率は20/100を相当とするので、原告の肉体的運動(労働)能力の喪失割合は概ね二〇%と判断され、原告が本件受傷に因り精神的にすくなからぬ苦痛を被むつたことは明らかである。

したがつて被告等は原告の右苦痛を慰藉するに足る金銭的賠償の義務があるものといわなければならない。

しかして右慰藉料の額は、原告の右後遺症並びに運動(労働)能力喪失割合に徴し、金二〇万円をもつて相当とするものというべきである。

六、そこでつぎに被告等主張の仮定抗弁について判断する。

(イ)  まづ被告等の、本件はすでに自動車損害賠償保障法による保険給付等合計金一四万二、七〇〇円の支払によつて当事者間に示談が成立し賠償義務は消滅した旨の抗弁であるが、右示談の成立を認めるに足る具体的立証がなく、右主張は失当である。

(ロ)  つぎに被告等は右示談の成立が認められないとしても、被告等は原告に対し本件賠償のため前記保険給付として金一〇万円見舞金として金四万一、〇〇〇円、原告単車の修理代として金一、七〇〇円計金一四万二、七〇〇円を支払つておるので該金額は当然原告の本訴請求額から控除さるべきものである旨主張するところ、原告が右金員を受領したことは同人もこれを自認しているところであり、かつこれら金員中単車修理代を除く爾余の金一四万一、〇〇〇円は右損害賠償の内入れと解すべきものであるから、右金員は前記原告の物的損害額から控除さるべきものといわなければならない。

しかし単車修理代は原告が本件事故に因りその所有単車について被むつた物的損害で右事故との間に相当因果関係が存し、もともと被告等においてこれが賠償の責に任ずべき性質のものであるところ、原告は本件起訴前に被告等から右修理代(金一、七〇〇円)の支払を受けたので、本訴においても右損害の賠償を請求しておらないことが明らかである(このことは原告の請求自体に徴し明白である。)から被告が右修理代として支払つた金一、七〇〇円は本訴請求額と相殺もしくは交叉的清算をなし得る性質のものでなく、したがつて右金員が本訴請求額から控除さるべきものであるとする被告主張は失当である。

(ハ)  つぎに被告等主張の過失相殺の当否並びにその範囲について判断する。

〔証拠略〕を綜合すると、原告の単車が被告の自動三輪車と接触した地点は有効幅員がわずか三、一メートルで、両車の離合が辛うじて可能という狭隘な道路であつたのであるから、斯かる箇所を車幅の大きな自動三輪車を運転して進行する被告勝としては勿論であるが、後部荷台にやや出張つた農薬箱を積載した単車を運転して進行する原告としても反対方向から進行して来る自動三輪車との接触等の事故発生を全然予測し得られないわけではないのであるから、斯かる場合右対向関係にある両車両の運転者としては、相互にできる限り徐行して安全に離合し得るよう努めるべき業務上の注意義務があるものというべきところ、原告もこの点の考慮にやや慎重さを欠き、安全に離合し得るものと軽信して速度を時速一〇粁位に減速しただけで進行したため被告勝の前記過失と相俟つて本件事故を惹起するに至つたものと認められるので、原告にも本件事故発生について過失の存したことを否定し得ないものというべきである。

しかして右過失の程度(割合)は原・被告両車両の種別、接触に対する物理的危険性の大小、危険回避能力の優劣、運行速度の運速等の事情を総合すると、概ね被告の9/10に対し、原告1/10とみるのが相当である。

七、以上によると、本件事故に因り原告が被むつた損害は

物質的損害 金二五万一、一二四円

精神的損害(慰藉料) 金二〇万円

合計 金四五万一、一二四円

であるところ、前記原告の過失(その割合1/10)を斟酌すると、右損害額は金四〇万六、〇一二円(45万1,124円×(10-1)/10=40万6,012円、円位未満は四捨五入)となり、なお原告はすでに被告等から金一四万一、〇〇〇円の内払いを受けておるので、これを控除すると、残額は二六万五、〇一二円(40万6,012円-14万1,000円=26万5,012円)となることが、その計数上明らかで、結局被告等の原告に対し支払うべき義務のある金額は右金員をもつて相当とするものというべきである。

八、よつて原告の本訴請求中、右金額およびこれに対する本件事故発生後である本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和三九年九月一八日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める分についてはその理由があるからこれを認容し、右限度を超える分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法第一九六条第一、三、四項をそれぞれ適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川晴雄)

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